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Paul H. Tanser, MD
僧帽弁逸脱(MVP)は収縮期に僧帽弁尖が左房側に膨らむことである。最も一般的な原因は特発性の粘液腫様変性である。MVPは通常は良性であるが,合併症に僧帽弁逆流,心内膜炎,弁破裂,そして恐らく血栓塞栓症などがある。MVPは通常は無症状であるが,一部の患者は胸痛,呼吸困難,交感神経亢進の症状(例,動悸,めまい,失神近似症状,片頭痛,不安)を経験する。徴候にはカリッという(crisp)収縮中期のクリックがあり,もし逆流が存在するならば収縮後期の雑音がこれに続く。診断は身体診察および心エコー検査により行う。予後はきわめて良好である。僧帽弁逆流が存在しない限り特異的治療は必要ないが,交感神経の症状を有する患者はβ遮断薬により利益を得ることがある。
MVPはよくみられ,その他の点では正常な集団において有病率は1〜5%である。女性と男性が等しく罹患する;通常,思春期成長スパートに続いて発症する。
病因
食欲不振ENベネズエラ
MVPは僧帽弁および腱索の粘液腫様変性により最もしばしば引き起こされる。変性は通常は特発性であるが,常染色体優性またはまれにX連鎖劣性の形式で遺伝することもある。粘液腫様変性は結合組織疾患(例,マルファン症候群,エーレルス-ダンロー症候群,成人型の多発性嚢胞腎,骨形成不全症,弾性線維性仮性黄色腫,SLE,結節性多発性動脈炎)および筋ジストロフィによっても引き起こされる。MVPはグレーヴス病,乳房発育不全,フォン・ヴィルブラント症候群,鎌状赤血球症,リウマチ性心疾患を有する患者ではより一般的である。粘液腫様変性は大動脈弁または三尖弁も侵して大動脈弁または三尖弁の逸脱をもたらしうるが,三尖弁逆流はまれである。
乳頭筋機能不全が存在する場合,または僧帽弁輪が拡張(例,拡張型心筋症における)もしくは狭窄(例,肥大型心筋症における,または心房中隔[二次口]欠損による)している場合,正常な(すなわち非粘液腫様の)僧帽弁尖が逸脱することがある。重度の脱水またはときに妊娠中(女性が横臥位にあり妊娠子宮が下大静脈を圧迫し,静脈還流量を減少させるとき)のように血管内容量が大幅に減少するとき,一過性のMVPが起こることがある。
僧帽弁逆流(MR)は最も一般的なMVPの合併症である。MRは急性(腱索の断裂または僧帽弁尖の激しい揺動による)のことも慢性のこともあり,慢性MRの続発症には心不全および血栓塞栓症を伴う心房細動(AF)がある。MVPがMRおよび心房細動とは無関係に脳卒中を引き起こすか否かは明らかではない。加えてMRは,肥厚した余剰な僧帽弁尖と同様,感染性心内膜炎の相対リスクを高める。
症状と徴候
経膣超音波検査時の痛み
ほとんどは無症状である。非特異的な症状(例,胸痛,呼吸困難,動悸,めまい,失神近似症状,片頭痛,不安)を経験する者もおり,僧帽弁の病理ではなく,十分に明らかにされていないアドレナリン作動性のシグナル伝達および感受性に関連すると考えられる。患者の約1⁄3で情動ストレスが動悸を誘発し,これは良性の不整脈の症状(心房性期外収縮,発作性心房性頻拍,心室性期外収縮,複雑な心室性異所性収縮)であることがある。
ときに患者はMRを呈する。まれに患者は心内膜炎(例,発熱,体重減少,血栓塞栓現象)または脳卒中を呈する。突然死は1%未満に起こり,最もしばしば腱索の断裂および僧帽弁尖の激しい揺動に起因する。致死的な不整脈による死亡はまれである。
humerour骨折
典型的には,MVPは視認または触知される心徴候を引き起こさない。MVPのみが,患者が左側臥位のときに左心尖で聴診器のダイアフラムにより最もよく聴かれる,カリッという(crisp)収縮中期のクリックを引き起こす。MRを伴うMVPは収縮後期のMR雑音を伴うクリックを生じる。左室(LV)のサイズを減少させる手技(例,座る,立つ,バルサルバ手技)に伴いクリックが聴取されるようになるか,第1心音(S1)に近づき,大きくなる;同じ手技によりMR雑音が出現するかまたはより大きくかつ長くなる。これらの効果は,左室のサイズが減少することにより乳頭筋と腱索が弁の下方でより中央に近づき,その結果,より早期でより重度の逆流を伴うより速くより強力な逸脱が生じるために起こる。逆に,蹲踞や等尺性ハンドグリップはS 1クリックを遅らせ,MR雑音を短縮する。収縮期クリックは先天性大動脈弁狭窄のクリックと混同されることがあるが,先天性大動脈弁狭窄のクリックは収縮期の非常に早期に起こり,姿勢や左室容量が変化しても動かないことから区別できる。他の所見には収縮期の警笛のような音(honk)やぜいぜいという音(whoop)があり,弁尖の振動により起こると考えられる;これらの所見は通常は一過性であり,呼吸相によって変化することがある。逸脱した弁が正常な位置に戻ることにより起こる拡張早期の開放音がまれに聴かれる。
MVPに関連するが診断の役には立たないその他の身体所見には,乳房発育不全,漏斗胸,ストレートバック症候群,前後径が短い胸がある。
診断
診断は臨床的に示唆され,2-D心エコー検査により確定される。全収縮期の3mm以上の偏位または収縮後期の2mm以上の偏位はMVP患者の95%を同定し,患者に立位をとらせて心エコー検査を実施すると,このパーセンテージは若干高くなる。肥厚した余剰な僧帽弁尖と5mm以上の偏位は,より広範な粘液腫様変性,ならびに心内膜炎および僧帽弁逆流のより高いリスクを示すと考えられる。
ホルター心電図モニタリングおよび12誘導心電図は動悸を有する患者において不整脈を立証するのに有用である。
予後と治療
MVPは通常は良性であるが,弁の重度の粘液腫様変性はMRをもたらしうる。重度MR患者では,左室または左房の拡大,不整脈(例,心房細動),感染性心内膜炎,脳卒中,弁置換術の必要,死亡の発生率は約2〜4%/年である。
MVPは通常は治療を必要としない。交感神経系の緊張亢進(例,動悸,片頭痛,めまい)の症状を緩和し,危険な頻拍のリスクを低減するために β遮断薬が用いられることがあるが,このやり方を支持するデータはない。典型的な治療法はアテノロール25〜50mg,経口投与,1日1回またはプロプラノロール20〜40mg,経口投与,1日2回である。心房細動には追加治療が必要なことがある(不整脈および伝導障害: 治療を参照 )。
MRの治療は,重症度および関連する左房および左室の変化によって決まる。
MRまたは肥厚した余剰な弁が存在するときのみ,ハイリスクの手技の前に心内膜炎に対する抗生物質の予防的投与が推奨される(心内膜炎: 心内膜炎に対する抗生物質療法を参照 表 2: )。心房細動または以前の一過性脳虚血発作もしくは脳卒中を有する患者にのみ,血栓塞栓症を予防するための抗凝固薬が推奨される。
最終改訂月 2007年3月
最終更新月 2005年11月
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